朝議では、紅一族の仕事を停止したために混乱が起きていることで官吏たちが騒いでいた。その一人が原因は何かと劉輝に噛みつくように尋ねていた。それを皆が知っているように黎深が拘束されたからだと劉輝は答えたのだが、官吏たちにはそれと紅一族の放棄が結びつかない。
「藍家と並ぶ名門中の名門、紅家当主を、
証拠もなく不当に拘束などすれば、
紅尚書本人はもちろん、誇り高い一族が怒るのも道理」
その事実に場が静まった。高級官吏でも知らないことだったんだねぇ。その中で一人、汗をかいて戦慄いている人物がいた。俯いて身体を震わせているその官吏を、劉輝と絳攸、楸瑛が静かに見ていた。
前回の騒動が片付いてから、静蘭は邵可が気になるからと一度家に戻っていた。そして翌朝、顔を洗っている秀麗に化粧箱を渡していた。胡蝶が静蘭に持ってくるよう言っていたらしい。
前に胡蝶から貰ったのだと言って開けていると、そこに手紙が入っていた。彼女にプレゼントしたときの言葉が書かれていたのかな? 化粧は女の戦装束だから、戦に赴くときは必ずしておくように。そうすれば絶対に泣けないのだと胡蝶は言っていた。泣いたら化粧が崩れるから、それがみっともない顔になるから泣けなくなるのだと言っていた。
秀麗は胡蝶の言葉を思いだしたが、どうしても化粧ができなかったと話し始めた。男性ばかりの政治の世界では必要のないものだと思っていたからだと。胡蝶は秀麗がそうであっただろうなというのもお見通しだったんだろうなぁ。
しかし秀麗は自分が間違っていたと反省した。化粧をしてもしていなくても、自分は変わらないのにと言って。泣きたくなったら自分の元に来てくれと以前言っていた静蘭に、秀麗は「私は泣かない」と決心を告げていた。静蘭ももう迷いはすっかりなくなったからか、だったら自分は「お嬢さまが泣かないですむように支えることにします」と答えていた。
さて、再び朝議の場面では、劉輝が疑惑について議題が移っていた。それを確認するかのように劉輝は蔡尚書の名を呼んだ。彼は当初から女性官吏に猛反対していた。この指摘に対して蔡尚書はほとんどの者が反対していたと反論を始め、怪しいのは自分ではなく魯官吏であると罪をなすりつけようとしていた。
紅進士に対して辛く当たっていたのは魯官吏の方である。だから紅尚書にも恨みがあるのだ。そう言った蔡尚書に、劉輝は魯官吏が女性官吏に反対していなかったこと、恨みがあるどころか、彼は珍しくも紅尚書のお気に入りと蔡尚書の知らなかった事実をまた一つ教えてあげていた。
反対に、蔡尚書には進士の一部が不当に酷使されていることを知っていたというのに、配下を止めなかったのかと監督責任を問い詰めた。蔡尚書はこれにも反論していた。いつものことだと聞いていたからと。
いつものこと。魯官吏は将来有望な者には特別に目をかけること。それを知らないなんて、どこまで使えないんだろうね、この蔡尚書は。絳攸も奇人もそうだったんだね。もちろん黎深も。
画面が変わって黎深が自発的軟禁状態に入っている離宮が映し出された。彼は優雅にお茶を飲みながら、魯官吏に話しかけていた。ここの会話、好きだなぁ。
「貴方は私が相手でも全く容赦がなかった。
鼻っ柱を叩き折られましたよ」
「折られるほど脆い鼻っ柱ではございますまい。
それより紅尚書、いつまでここに……」
魯官吏は黎深に朝議へ行ってもらうように言うために来ていたらしい。何故彼が、と思ったら、黎深が魯官吏が来るなら行くと言っていたかららしい。早く城下場内の混乱を憂いている魯官吏に対して、黎深は知ったことではないと言い切った。
「だいたい玉座に座っているあの鼻たれ小僧は、
もっと世の中の苦労というものを知った方がいいんです」
「貴方にだけは言われたくないと思いますがね?」
この二人の会話は面白すぎる。確かに黎深にだけは言われたくないよ(苦笑)
黎深の全く動かない様子に魯官吏はため息をついて、彼が勧めたお茶を飲んでいた。この後の黎深の話というか、映像がまた面白すぎる! 彼は昔、魯官吏に馬屋番を命じられていたそうで……。当時は魯官吏を何度も抹殺しようと思っていたらしい。しかし黎深は、魯官吏の真意は後から解ると言ってそうしなくて良かったと言っていた。
「杜影月はあまりに若く何の後ろ盾もない。秀麗は若い上に女。
どちらも最初から舐められ潰しにかかられるのは目に見えていた。
貴方の厳しい指導は自分への自信と、朝廷勢力への抵抗力をつけるため。
そして進士がどれほど優秀か見せつけ、上に舐められないようにしてくれる。
厠掃除や靴磨きという雑用も、官吏たちの真実を見聞きするのに最適だ。
朝廷最高官たちは、貴方がどれだけ仕事を振っているかで
有能な人材か否かを判断する」
しかし黎深の言葉に魯官吏は甲斐被りすぎですと答えた。自分や奇人に一言言えば昇進させてあげられるのにと扇で口元を隠して言っても、魯官吏は今のままで満足ですとキッパリ答えていた。これで仮に「本当ですか?」なんて言った日には、黎深はそれはそれは悪辣に失脚させるんだろうなぁ。でも、自分が認めているほどの人物である魯官吏がそんな誘いには応じないことも知っているんだろうね。もしかして尊敬しているのかも!?
魯官吏は自分のような者も朝廷には必要だと先王から直々に頭を下げられたらしい。更に劉輝も魯官吏に全てを任すと言っていたそうだ。こういう人間がいるから、朝廷は腐敗しきらずに済んでいるんだねぇ。つまり珀明が途中で仕事量を増やされたのは、見どころがあると魯官吏が認めたからだったんだね。更に、秀麗たちに毎日差し入れを出していたのは魯官吏だったのか!
おまけに黎深が言いだしたことといったら! 彼は魯官吏が一緒でないと朝議には出ないと言って、彼を迎えにこさせていた。魯官吏にとってはそれはこの時だけのこと。しかし黎深にとっては今後もずっと魯官吏が出なければ朝議に出ないということ。魯官吏が今の地位で満足していると拒否したら、今度こそ城下の全機能が停止すると脅迫し始めた(笑) 蔡尚書失脚後、その任に当たるのは魯官吏ということなんだねー。
渋い顔をする魯官吏に、黎深はいいことを思いついたらしく声のトーンを上げていた。魯官吏は主上には勿体ないから、自分の家の家令になりませんかと黎深は提案したが、魯官吏はそっちの方がゴメンと言わんばかりに「一緒に朝議に出ます」と低い声で答えていた(苦笑) 究極の選択だったんだねぇ。
一方、予想した通り姮娥楼から出た途端に秀麗は蔡尚書の手の者の妨害にあっていた。しかし秀麗はこれくらいで自分を止められると思ったら大間違いと力強く駆け出していた。
再び朝議では、劉輝が奇人を指名していた。奇人は数年前より礼部から予算の増額を求められてきたが、それだけの出費がかかるとは思えないと話し始めた。そこで礼部の前年の見直しをしたところ、無駄な出費というよりも首を傾げる項目の出費が非常に多いことがわかったと報告を上げた。
更に、毎年国試及第者のために郷里報告の早馬を礼部が無償で飛ばしているのだが、今年影月が郷里に送った銀80両が全く届いていないことも付け加えた。影月だけでなく、同様の訴えは数年前から何件も寄せられていたらしい。影月が確認を取っていたというのはこのことかな?
今回、奇人は早馬を秘かに追いかけさせたと続けて言った。お金を持ったまま、早馬は誰の屋敷に駆け込んだのか。奇人がそこまで言うと、蔡尚書が「濡れ衣です!」と慌てて立ち上がった。しかし奇人は、自分はまだ誰とも申し上げていませんが、と静かに告げた。……よほどテンパってるなぁ(苦笑)
騒然とする中、蔡尚書は奇人の仮面について言及を始めた。素顔も見せないでどうして高級官吏までに上り詰められたのかと。……呆れてものがいえないなぁ。仮面をつけていても奇人が優秀だったからに決まっているじゃないか。第一、礼部の予算と影月の無くなった俸禄とその話は全く関係のない話だ。
「ふむ……。巷のへぼ小説並みの展開ですね」
確かに!(笑) しかしこのことは蔡尚書だけでなく他に気になっている人間がいるかもしれないと思うと、無視できないことなのかもしれないね。奇人は仮面を取りましょうとあっさりと言うのだが、他の高級官吏たちが「止めてくれ!」と騒ぎ始めた。平穏な人生をかき乱すのは止めてくださいって……。そこまでなのか?
霄太師が笑いだして、蔡尚書だけに見せればいいと提案していた。劉輝が自分も見ていいかと手を挙げたときの、官吏たちが速攻で「いけません!!」と口を揃えて言ったシーンが笑えた。絳攸も楸瑛も、奇人が仮面をしているのは、不細工だからと思っているようだねー。きっと、彼の素顔は作品が終わっても明かされることはないんだろうなぁ。
一方の秀麗たち。護衛している静蘭がいくら強くても多勢の場合はやはり厳しくなっていた。そこを助けたのは柳晋だった。柳晋だけでなく、町の人たちも秀麗を助けようと駆けつけてくれた。
彼はすまなそうな顔をして謝ってきた。彼らが急に秀麗に対してよそよそしくなったのは、官吏となった秀麗に気を遣っていたからだった。官吏というのは偉い人、そんな人になった秀麗が自分たちと付き合ったら、他の官吏から馬鹿にされて肩身の狭い思いをさせてしまうんじゃないかと彼らは思っていたらしい。
これで秀麗の心配事はなくなった。ようやく王宮に到着したと思ったら、今度は門番が二人を通してくれなかった。しかしここでも救いの手が現れた。こんな事だろうと思った。そう言って現れたのは珀明だった。一つが上手くいくと、次々といいことが起こっているなぁ。
霄太師が三日は使い物にならないと言っていた。奇人の素顔を見た蔡尚書は、見惚れる……レベルではなく本当に呆けていた(汗) しかし素顔を見ても柚梨は平気なんだね。あと、美に関して言うなら好みは人がいればそれだけあると思うのだけど、奇人の顔は万人が骨抜きにされてしまうほどということ? ま、物語だからできることだね。
さて、呆けているのを幸いに、奇人は蔡尚書に対してこれまでの不正を確認していった(苦笑) 言葉もなく首を縦に振っている蔡尚書が笑える。あの状態でだったら何を言っても頷くんだろうなー。それがわかっているから柚梨の表情を曇らせ、これは詐欺なのではと言ってみるが、奇人は全て真実だと仮面をつけていた。泥団子事件のあの官吏たちからも証言を取っていたらしい。
正気のままだったら長引くのは確実だったものね。魯官吏を伴って現れた黎深も、最初からこうすれば良かったと思うと言って現れた。そして蔡尚書の前に立つと手を叩いた。……三日間使い物にならなくなるんじゃなかったっけ? そんな、手を打っただけで我に返るとは。しかし蔡尚書の地獄はこれからだった(苦笑)
「さて、貴方は非常に面白いことをしてくださった」
「ぅぅぅぅぃや、私がしたのではなく……」
「百万が一そうでも私は貴方がしたと思っているので、事実は関係ありません」
絳攸が頭を抱えて無茶苦茶だと心の中で言っていた(笑) 楸瑛も表情から同じことを思っているんだろうなぁ。しかしここまで平然と言いきれるというのが凄い。
「今後紅家縁の場所には近寄らない方が無難でしょう。
手配所を回しましたからね。見つかったら最後、
近くの川に重しをつけてドボンです」
楸瑛「この国で紅家の息のかからない場所などないというのに……」
「うちの一族は私同様怒ると手がつけられない上非常に執念深いので、
百年経っても貴方の顔と名前は忘れませんよ?」
ああ、いいなぁ、黎深。素晴らし過ぎるよ。劉輝が「怖い」と口にしているくらいに。しかも心底ビビっている蔡尚書が、こんな事はもう二度としないと言いかけても手を緩めるつもりは全くないというのが更によい。蔡尚書のような人間は、ここで二度としませんと土下座してもほとぼりが冷めたらまた悪いことをしそうだけど、黎深相手だったら流石にそれは無理だろうねー。まぁその前にドボンされているか(苦笑)
「生憎私は嫌いな相手はとことん追い落とす主義なんです。
数年前、私の養い子を捨て子と馬鹿にした。
あの時から貴方を許すつもりはさらさらなかった」
絳攸「ん?」
絳攸への暴言を許さないと言ったところでは、黎深は口元を扇で隠して蔡尚書に近づいて囁いてた。そういうのを絳攸に見せてあげたらいいのに、素直じゃないお人だね。言いたいことを言い終えた黎深は「ああ、そうそう!」と、今思い出したかのように蔡尚書のカツラを遠慮なく取って、そこに隠されていた指輪を見つけた。
茶家当主を示す指輪の偽物を持っていた蔡尚書に、黎深はそれを持って茶一族に助けを請おうとしても無駄だと駄目押ししていた。既に手を回していたとか(苦笑)
「この私が一つでも退路を残すとお思いですか?」
逃げ場のなくなった蔡尚書は、女が入ってくるのが悪いんだと繰り返し言っていた。……いやいや、秀麗と黎深に手を出した自分が悪いんだって。ここまでされても自分の非を認めないとは……。ある意味凄いね。今までそうやって悪い事は他人のせいにして生きてきた証だね。こんなのが高官になれる国というのも問題だなぁ。劉輝の世代でそういうのは一掃できたらいいんだけどね。ああ、現実にも黎深のような人間がいたらいいのになぁ。
さて、蔡尚書が恨み事を言った相手、秀麗は王宮にはたどり着いたものの尚も妨害にあっているようで、なかなか姿を現さなかった。心配する絳攸に、楸瑛は「必ず来る」とハッキリ言っていた。
「碧進士、腕に自信は?」
「我が碧家は詩文芸能に長ける家だ。武芸などとんと縁がない!」
「つ、使えない……」
この会話に和んだ。この場面で分が役に立たないことをここまで自慢げに語る珀明がいいなぁ。しかし彼らを待ち受けていたのって王宮の兵士なんだよね。こんな事をして、後で黎深に何をされるのかわかっていないんだねぇ。しかし静蘭一人で秀麗と珀明を守るのは確かに厳しいね。
そこへ扉の向こうから兵士を攻撃した者がいた。勅命通りに正午までに到着した燕青だった。これでもう安心だね。
さて朝議の席では秀麗と影月が作成した、蔡尚書の不正の書類を高官たちが見て感心していた。不当な言いがかりをつけられたため、釈明の助けになるようにと徹夜で仕上げ提出したものだと劉輝が補足していた。
「二人は誰が不正をしているか、ちゃんとわかっていたワケだ、蔡尚書」
「おかしいとは思わないのか!?
突然降って湧いたような女人受験で、十七の小娘が探花及第だと!?
国試はそんなに甘くない! 王と側近が女人受験を強引に推進した。
おかしいと思わんか!?」
蔡尚書の悪あがきはまだまだ続くんだね。国試はそんなに甘くないと言っているが、彼も実力で受かった人間ということのみ真実なんだろう。蔡尚書の言葉に一部の者が同調していた。だからこそ、確かな実力を示すためにも査問会でそれをはかろうとしているんだね。中には蔡尚書と同様に女人の国試受験に反対している人間もまだいるだろうし、珀明が秀麗に言っていた通り、そう言った高官たちに何も言わせなくすればいいんだよ。
「そうだな。実力主義が国試だ。
だから先王は、王でさえ介入が不可能な国試制度を作った。
それは国試を突破してきた者が、一番よくわかっているのではないか?
どれほど国試の公平性が厳しく、どんな不正も許さないか、
身をもって体験してきたはずだ。そう、国試は甘くない」
国試は甘くない、という言葉のみ劉輝が賛同する意見を言うと、今度は秀麗が来ないことを蔡尚書は問題にし始めた。自分で妨害しておいてよく言う! しかも秀麗と影月が徹夜で作成した書類を、本当に本人が仕上げたのか怪しいなんて言う始末! そもそも蔡尚書は同等の書類を作成できるのか〜?なんて思ってしまったな。
秀麗が来ないと確信しているからだろう。もうすぐ正午になるのに、一向に姿を現さない秀麗に、蔡尚書はもう勝ったつもりでいるようだ。黎深によって身も凍る思いをさせられても、秀麗を追い落とせるならそれでいいと思っているんだろうな。そして、秀麗が間に合わなかった、ということは不正をしていなくてもそれを証明する機会が得られないということであり、黎深に対しても一矢報いることだできると思っているのかも。
しかし私が一番腹を立てたのは、無理に官吏にならなくても紅家の姫ならいくらでもいい縁談があると言って笑っていたことだな。この世界ではそんなレベルの思考が当然とされていたんだろうけど、女は結婚して子どもを産むだけの存在という考えが私には許せないな。いい種持ってない奴が言うと余計に腹が立つ(笑) ま、そんな蔡尚書を黎深が冷たい目で見ていたからいいけど。腹の中では何を考えていたのか聞きたかったなー。
そこへ秀麗が現れた。最後の悪あがきもここでお終いだね(笑) 今からすぐに査問会、公開口頭試問を始めると言われてすぐに応じただけで、秀麗に対する疑惑は高官たちからもただの噂だけだと感じられただろうね。
「では最後に尋ねる。何故女人の身で官吏になりたいと?」
「僭越ながら、何故女の身でとお尋ねになられても、
その問いの答えは持っておりません。私は、私ができることをしに来ました。
自分が男でも女でも国試を受けました。官吏になりたい。
この手で多くのものを守りたい。そう思っていました。
だから、国試を受けたのです」
女でたった一人の官吏だから女人官吏。私はこういう呼称が嫌いである。何故、前に女流という言葉を付けるんだろうね!? 普通に官吏でいいじゃない。